May 28, 2006

Fukamachi Jun #65: Performer Knows How Do Audiences Feel

【演奏家が感じている観客の気】

気。

雨ということで客足は遅く、満員にはなっていないアートカフェ。さらに、湿気があるとピアノにはよくないという。そんなちょっと劣悪な環境の中で、ほぼ定時深町さんはピアノに向かった。しっとりとした曲。雨だからしっとりなのか、客の反応がしっとりだから、静かなのか。1曲目を弾き終わって彼は言った。「ちょっとお葬式みたいですね」 

演奏家は、観客が集中しているか、していないか、喜んでいるか、楽しんでいるか、感動しているか、あるいはちょっと中だるみしているか、飽きているか、あくびをしたかどうか。そうした観客の気持ちが手にとるようにわかる、という。1曲目では客がお葬式みたいに聴いていたのかもしれない。(笑) 客が中だるみしていれば、演奏家側は客に喝をいれようとする。だからこそ、ライヴというのは、演奏家と観客とで作り上げるものだ、と彼は言う。

「観客によって、のせられて素晴らしい演奏をすることもあれば、観客が悪くてうまくない演奏になってしまうこともあるんだ。でも、大概の場合、演奏がうまく行かなかった場合、やるほうは、自分が力がなかったから、自分が下手だからと思ってしまう。それはしょうがないだけど、でも実際は観客がよくなくて下手なパフォーマンスを見せたということもあるんだよね。ただ、演奏家はなかなかそうは言えないんだけどね」 

演奏家対聴衆の関係についての、鋭い考察だ。演奏家は、観客が作り出すその場の「空気」「気」を微妙に、繊細に感じ取っているということでもある。いいライヴは観客が作る、ということはまさにそういう意味だ。

深町さんが自分で演奏してものすごく印象深かったライヴのひとつはお葬式で即興演奏をした時だった、という。彼は葬式で演奏することを当初躊躇した。亡くなったのはまだ若い娘さんで、深町さんはそのお母さんから頼まれて、最初は娘が好きだったビートルズの曲を何か演奏して欲しいと言われていた。だが、鼻をすする音があちこちから聴こえてくるその現場の雰囲気で、とてもビートルズの曲などを演奏できないと感じた深町さんは、急遽即興で1曲弾いた。

そして、自分が演奏しているその間、参列者が故人との楽しい思い出や、悲しいことなどをそれぞれに感じていることが手にとるようにわかった。演奏が終わった後、お母さんがやってきて、演奏してもらってとてもよかった、何かつかえていた苦しみのようなものがなくなったような気がする、と深町さんに漏らした。ある意味で、傷を癒したのかもしれない。そして、傷ついた人を癒せるのであれば、そういう音楽を、例えば、葬式などで演奏するのも悪くはないと考えるようになった、という。

「葬式ネタ」続きで面白い話を披露。深町さんが70年代にデビューした時のプロデューサーがその後独立して、結婚式へバンドを派遣するような会社を興して大成功した。そこで、その人物は冠婚葬祭に音楽をいれようということで次に葬式へ音楽を供給するビジネスを始めた。ところが、これが結婚式ビジネスほどうまくいかなった。そのプロデューサーが彼にこうこぼした。「深町さん、葬式は予約が取れないんだよ・・・。だからミュージシャンを押さえておけなくてさ・・・。(苦笑)」 

バトル。

第二部で、この日初めて深町純ピアノ・パーティーにやってきたクラシックのピアニストがいた。下山静香さんという。彼女が1曲スペイン風の「アンダルーサ」という曲を演奏した。深町ピアノとはかなりニュアンスの違った雰囲気の、クラシック調のものながら、ポップ色も感じられてなかなかよかった。すると、彼女に続いて深町さん、その「アンダルーサ」の一部のメロディーを使って、深町ヴァージョンの「アンダルーサ」を即興で作り演奏したのだ! 即興演奏家、深町純の面目躍如だ。下山さんのとは、まったく違ったヴァージョンに。一つのテーマを元にした、これぞ、ピアノのバトル! すばらしい。こういうのどんどん、やりましょうよ。下山さん~深町さん、そこでもう一度、下山さん~深町さんと一つのテーマでバトルしたら面白い。

バッハとかモーツァルトの時代でも、そういうバトルみたいのはあったのでしょうか。「それは知らないけど、あ、でも、例えば宮廷のお抱えピアニストみたいのがいて、うちのピアニストはこんなにすごいんだ、みたいなのをどこかに出向いて、そこのピアニストと戦わせるみたいなのはあったかもしれないね」

かつて、黒人街で二組のヴォーカル・グループがストリートで1曲ずつアカペラで歌い、バトルをして、そこに集まった観客の拍手で勝者を決めるという風習があった。それは後に、ラップや、ブレイクダンスへとつながっていく。確か映画『海の上のピアニスト』で、2人のピアニストが1曲ずつやるバトルがあったように記憶するが、そうしたスリリングなバトルが見られた瞬間だった。別に勝ち負けは関係ない。ひとつのメロディーやテーマを2人の違うアーティストが、それぞれの解釈でやるというところがおもしろいのだ。

下山さんは、普段はクラシックのホールや、アートカフェのクラシック版のようなサロンで演奏しているという。クラシックの型にはまらないで自由奔放に、ジーンズでこうしたところに来て深町パーティーで堂々と演奏するところなどとてもいい感じ。これで、即興演奏ができたら、おもしろいのに~~。(笑) 下山さんは「私は、即興ではできませんから。(笑) 練習してこないと・・・(笑)」 練習してくる即興演奏・・・? (笑) 

深町さんは言う。「5000人の観客の前で堂々と歌える人でも、これくらいの人数のところ(70人くらい)では歌えない、という人もいるんだよ。つまり、こんな目の前に人がいるんだから・・・。演奏家も同じ」 なるほど~~。

同じピアノを弾いても、深町さんが弾くのと、下山さんが弾くのでは出る音がまったく違う。「このピアノは、クラシック向きなんですか、それとも深町さんのような音楽向きなんでしょうか」 「う~~ん。どちらともいえないが、ひとつ言えるとすれば、いいピアニストが弾いていれば、いいピアノになるし、下手なピアニストが弾いていけば下手なピアノになっていくということかな」 下山さん。「そう、ピアノは生き物ですから。演奏家に合わせて変わっていきます。それに、その日の気候、湿度、温度などでもね変わるし、だから生き物」 深町さん。「もちろん、いいピアノはいい音がするけれど、弘法筆を選ばずということもあるわけね。自分のピアノをコンサートホールに持ち込む人もいるけど、そこにあるピアノ、与えられた条件でやるというのも、ピアニストの仕事だからねえ」 

5月は深町さんの誕生月。誕生日は祝わないという主義の彼ではあるが、なんと飼っている2匹のネコの誕生日には、普段とは違うすごくいいえさをあげている、というから笑える。しかも、その誕生日というのは、拾ってきた日だそうだ。(ウケル) ということで、最後にショパンの「ノクターン」にその「誕生日」をメドレーで演奏した。

なお、6月の定例会は変則で17日(第三土曜日)になる。なんと、その日は下山さんの誕生日だそうだ。来月も来て、何か1曲バトルして欲しい。スペインには長く滞在したこともあり、また、ご主人がスペイン人でアコーディオンをプレイするということで、陽気で明るいラテン系、スパニッシュな香りが静かに漂う静香さんであった。

■関連ウェッブ

前回のライヴ評
April 30, 2006
Fukamachi Jun Live #64
http://blog.soulsearchin.com/archives/2006_04_30.html(ここに過去記事一覧があります)

アートカフェ・オフィシャル・ウェッブ
http://artcafe1107.com/

深町純オフィシャル・ウェッブ
http://www.bekkoame.ne.jp/~cisum/

MASSA(佐藤正治)オフィシャル・ウェッブ
http://www.ok-massa.com/massa/index.html
下山静香オフィシャル・ウェッブ
http://www.h7.dion.ne.jp/~shizupf/

■Setlist

1st Set

show started 19:41
01. 2006年5月27日19時41分の作品 (11.57)
02. 2006年5月27日20時08分の作品 (8.03)
03. 2006年5月27日御題拝借作品1. (2.00)
04. 2006年5月27日御題拝借作品2. (1.40)
05. 2006年5月27日御題拝借作品3.(2.13)
06. 「夢の後に」(フォーレ) (シンセサイザーで)(2.45)
07. 「カタストロフィー」(深町純)(シンセサイザーで)(5.14)
show ended 20:56
(approximately performing time 33:52 of 75 minutes show)(.4515)

2nd Set

show started 21.17
01. 2006年5月27日21時18分の作品 (4.43) (パーカッションの山下正樹さんを迎えて)
02. 2006年5月27日21時25分の作品 (5.36) (パーカッションのMassaさんを迎えて)
03. Andaluza (アンダルーサ)(グラナドス作曲) (下山静香さんの演奏)(3.45)
4. 2006年5月27日21時35分の作品 「アンダルーサ」への返歌(4.05)
05. 2006年5月27日21時40分の作品 (5.53)
06. 2006年5月27日21時46分の作品 (8.34)
07. 2006年5月27日御題拝借作品4.(1.43)
08. 「ノクターン」(ショパン)~「誕生日」(深町純)(5.05)
show ended 22:05
(approximately performing time: 39.24 of 48 minutes show)(.8208)

■過去の音楽比率(ライヴ全体の中での音楽の割合を表します)(単位は%)

2005年11月 第一部 41.70 第二部 51.82
2005年12月 第一部 39.86 第二部 58.91
2006年01月 第一部 58.81 第二部 67.23
2006年02月 第一部 38.4  第二部 49.7
2006年03月 第一部 50.9  第二部 92.7
2006年04月 第一部 53.1   第二部 57.3
2006年05月 第一部 45.15 第二部 82.08

(2006年5月27日土曜、恵比寿アートカフェ=深町純ライヴ)

ENT>MUSIC>LIVE>Fukamachi, Jun
2006-106

投稿者 吉岡正晴 : 08:04 AM | コメント (0)