January 07, 2007

Sad Foreboding: Incomplete Version

[ ENT>THEATER>]

(舞台『哀しい予感』の感想です。これからご覧になる方はあなたのリスクにおいてお読みください)

【本多劇場・哀しい予感~原作イメージには届かず】

未完成。

縁あって吉本ばなな作の小説『哀しい予感』(1988年)の舞台を下北沢の本多劇場で見た。収容330人の同劇場で21回公演(他に大阪で4回公演)がほぼ満席だというから大変な人気だ。原作の人気と主演の2人(市川実日子=いちかわみかこ、加瀬亮=かせりょう)の人気なのだろう。演出は映像作品『鉄男』で登場した塚本晋也。

物語は、「弥生」とその弟「哲生」、そして、おばである音楽教師「ゆきの」の3人を中心にした人間模様を描く。弥生にはちょっとした過去の秘密があり、それが徐々に明らかにされていく。弥生の物語は、充分ソウル・サーチンしているのだが・・・。原作も淡々としているが、舞台も抑揚なく淡々と進む。俳優陣もみんな一生懸命、演技をがんばっています、というのが見て取れる。やはり、演技しているというのが表にでては、なかなか辛い。いい舞台は、いつの間にか、その演技、演劇の中に入っていき、登場人物の誰かに感情移入していくが、これだととてもできない。

冒頭の10分くらいで、う~んこれは厳しい、という感想。見終わって、感じたのが「まあ、長い」ということ。15分の休憩をはさんで3時間10分。実質2時間55分。セットの関係上、どうしても休憩が必要だそうだが、それでも実質2時間くらいには収められるだろう。舞台ではかなりむずかしいので、むしろ映画にしたほうがいいのではと感じた。おそらく吉本ばななの原作の力があるだけに、演技力の弱い俳優陣だととてもおいつかないということなのだろう。

弥生がナレーション的に話すところと、素のセリフがあるのだが、原作にひっぱられたせいか、とても普段の会話では言わないであろう言葉がセリフとして出たりする。脚本をもっと練ったほうがいい。また、「間」がよくないために、笑いが取れるところもまだ取れていない。全体的に「間」はよくなく、演劇のリズム感はない。

また、原作では3人のキャラクターがよく描かれていると思うが、この劇場版ではかなり平板でキャラが立っていない。今風の感動などに無縁な若者に置き換えたと言われたら何も言えないが、まあ多分そういう狙いはないだろうから、おそらく演出不足ということなのだろう。演出は、全体的に甘く、流れができていない。

別に原作の全ページを舞台化する必要はなく、演出家は物語と登場人物のエッセンスを抽出し、物語の起承転結をめりはりをつけて見せればいい。そのために俳優陣に徹底的にキャラクター像を説明し、演出家が考えるところのキャラクター像を演じさせなければならない。原作を読んで、弥生のキャラクター、ゆきののキャラクター、それぞれ読み手によって違った印象を持つだろうが、本質的な部分は誰が読んでも同じはずだ。俳優陣も原作の読み込みが足りないのではないか。3人からキャラクターがなかなか浮かび上がってこない。

例えば、弥生のおばであるゆきのは、やりようによっては、ひじょうに俳優としてはおいしい役になると思う。原作からは、僕はもっとエキセントリックな変人、しかし、ちょっと美人、のようなイメージを持った。ところが、ここでのゆきのは、普通で、いい人で、ちょっときれいであんまり変人的なものが現れてこない。言葉で変わっているということが説明はされているのだが、現実的にそういう演技ではない。仮にここに樹木希林と桃井かおりを足して2で割ったようなキャラの女優か、そういうキャラを立てられたら、最後にその役者がこの舞台のすべてを持っていくことも可能だろう。

全体的に、演出家がどこに焦点を当てたいのか、何を描きたいのかがはっきりしない。また、原作では主人公弥生の心の動きがかなりヴィヴィッドに描かれているが、舞台の最初と最後で、弥生が変わったようには見えなかった。ここまで要求するのは、可哀相かな。原作のストーリーでは弥生は確実にソウル・サーチンしていたが、この舞台からはソウルはまったく浮かび上がらなかった。残念だ。また、細かいことだが、場面転換の効果音・音楽が大きすぎる。役者のセリフがマイクを通さないので、バランスがよくない。(これはすぐに直せるだろうが)

演出家の塚本は、原作をとても気に入りかなり読みこみ、シーンごとに映像アイデアがあったそうだが、塚本のそのイメージを俳優陣が具現化できていないのではないだろうか。それは演出家の力不足ということにもなる。なぜ映画ではなく、舞台だったのか。ちょっと聞いてみたい気もする。俳優陣はニューヨークのアクターズ・スクールあたりでも行って演技とは何かを勉強してくるといいのでは。

あと、これで7800円は高い。4500円くらいがいいところ。もっとも4500円でも、出し物に対する感想文は変わらないが。(笑)

ただ、少しフォローしておくと、僕が見たのが全25回のうちのまだ2回目だったので、ほとんど未完成で、これから演技などが徐々によくなっていくのかもしれない。

■公式ページ

http://www.umegei.com/s2007/yokan.html

(2007年1月6日土曜2時の回、下北沢・本多劇場=舞台『哀しい予感』)
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2007-001


投稿者 吉岡正晴 : 04:54 AM | コメント (0)